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ERM が考えるサステナビリティ―ビジネスの未来

イー・アール・エム日本では、サステナビリティに関わる様々なトピックをお届けするニュースレターを配信しています。またERMグループのシンクタンクであるThe ERM Sustainability Instituteが発行する各種レポートの概要を、日本語にてご案内します。

強化される包装材関連規制

本年1月22日、欧州連合(EU)において包装材・包装廃棄物規則(PPWR)が官報に掲載され、2025年2月11日に発効されました。これは、欧州グリーンディールに基づき通知された新循環型経済行動計画(CEAP)沿うものです。本規則の背景には下記の状況があります。 ・2010年から2021年までの包装廃棄物統計によると、EU域内で使用されるプラスチックの40%と紙の50%が包装に使用されている。 ・包装は都市固形廃棄物の36%を占め、これは1人1日あたり0.5 kgの包装廃棄物排出に相当する。2021年の包装廃棄物排出量は2010年比で24%増加し、このままでは2030年にはさらに19%増加する見込みである。 ・生成される包装材の量が多量かつ継続的に増加していること、また再利用と回収のレベルが低く、リサイクルが不十分であることが、低炭素循環型経済の実現に対する大きな障害となっている。

急成長するデータセンター市場:現状と複雑化するリスク

好調な日本国内のデータセンター事業 新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、「データセンター」という言葉がこれまで以上に浸透しました。人と人との交流が制限される中、ビジネスや日常生活のあらゆる場面で、情報のデジタル化と消費の加速が進み、その後も不可逆的な現象となっています。こうした需要に応える形で、関東や関西を中心に多数のデータセンターが建設され、外資系事業者が市場の成長を牽引しています。

ビジネスと人権に関する法規制と求められる企業の責任

ビジネスと人権に関する国際的な潮流 「ビジネスと人権」という観点から求められる企業の責任は法規制により変革してきました。2000年に国連グローバルコンパクトが発足し、2011年にはOECD多国籍企業行動指針の改訂および国連ビジネスと人権指導原則(以下、指導原則という)の採択がなされました。指導原則では、「人権を保護・保障する国家の義務」、「人権を尊重する企業の責任」、「救済へのアクセス」が三本の柱となり、「人権を尊重する企業の責任」は多くの企業において、基本原則として参照されています。国の取組をみると、2015年に英国現代奴隷法、2017年にフランス親会社および発注会社の注意義務に関する法律、2018年に豪州現代奴隷法、2021年に米国ウイグル強制労働防止法など、いわゆるハードローが制定されています。欧州では2023年に企業持続可能性報告指令(以下、CSRDという)が、2024年には企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令案(以下、CSDDDという)が施行開始するなどしており、欧州を中心に人権デュー・ディリジェンスに関する法制化が進んでいます。最近では気候変動や生態系、先住民族の権利に関連して欧州森林破壊防止規則(EUDR)が2023年6月に発効されています。

EU CLP規則の改正とその影響

欧州連合(EU)では、化学物質規制に関する重要な動きが続いています。特に、CLP規則(化学物質の分類、表示および包装に関する規則)に関して、2023年に新たな危険有害性区分が導入され、これがREACH規則にも大きな影響を与えています。また、ポイズンセンター届出(PCN)の移行期間が終了し、企業には新たな対応が求められています。今後、これらの規制が企業にどのような影響を与えるのかを探ります。

責任ある政策関与(RPE)による民間セクターの戦略的アプローチ

温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)の総量を実質ゼロとすることを目指す「ネットゼロ」に最前線で取り組む企業にとって、公共政策とビジネス目標が整合していることは、当該目標を達成するための重要な要素です。政府や規制当局、あるいは自治体等が、適切な気候変動関連政策と規制を採用することにより、企業が必要な投資を行い、目標に対して迅速なアプローチを行うことが可能となるためです。

Headline ■ COVID-19パンデミックが示す今後のEHS管理の在り方 ■ 海外生産拠点の国内回帰やASEAN移転を政府が支援 ■ 現地訪問ができないときの環境デューディリジェンス

PFOS/ PFOAが喫緊の環境リスクへ

環境省では、公共用水域および地下水の要監視項目にPFOSとPFOA(ペルフルオロオクタンスルホン酸及びペルフルオロオクタン酸)を追加し、両物質の合計値で0.00005 mg/L以下(50 ng/L以下)を暫定の目標値として定めることを2020年5月28日付で各都道府県知事等に通知し、即日運用が開始されました。また、2020年6月11日の環境省の発表によると、全国の河川、湖沼、海域、地下水、湧水の合計171地点で水質調査を行った結果、160地点でPFOSもしくはPFOAが検出されるとともに、そのうちの37地点では水環境の暫定的な目標値(両物質合計で50ng/L)の超過が報告されています。

Headline ■ ベイルート爆発事故 ■ 古い石炭火力発電所の停止と洋上風力発電の推進 ■ カーボン・ニュートラル ■ ブレグジットとプロダクト・スチュワードシップ

Headline ■宇宙時代のEHS(環境と安全衛生) ■鉱山セクターにおける新しいグローバルスタンダード ■ESG情報開示フレームワークの統合 ■2050年カーボンニュートラルを目指すグリーン成長戦略

Headline ■ 東京オリンピックのレガシー 持続可能性への取り組みについて ■ サーキュラー・エコノミーの実践へ向けて ■ SustainAbility Institute 「2021年サステナビリティ・リーダーズ」を発表 ■ デジタルトランスフォーメーション

Headline ■ サーキュラー・エコノミーを企業戦略に取り入れるための方法 ■ バイオ素材や廃棄物の活用を助ける国際認証ISCC ■ 「ビジネスと人権」の流れ ■ 急増するデータセンターに求められるESG対応

韓国の重大災害処罰法対応

昨今、企業経営においてESG対応が求められる中、社会面(S)の一項目として、労働者の安全衛生対応、企業が製造・販売等した製品の安全性の配慮等の重要性もますます高まってきています。直近の国際的な動きとして、多くの企業方針の中で参照されている国際労働機関(ILO)のILO宣言の改定があげられます。ILOは2022年6月に開催した総会において、労働における基本的原則及び権利に関する ILO宣言で掲げられた「中核的な労働基準」の5番目の分野に「安全で健康的な職場環境」を追加することを決議しており、国連ビジネスと人権指導原則における企業の人権尊重責任の一環として労働安全衛生への対応が求められるようになると考えられます。

不動産業界におけるESG:未来を形作るトレンドと変革

不動産におけるESG の重要性の高まり サステイナビリティへの取り組みがすべての業界にとって重要な柱となる中、不動産業界も環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みを進めています。一方で、ESG は「あると良いもの」という認識の事業者も多 いのではないでしょうか。脱炭素を柱に様々な文脈においてESG は「必須要素」へと変わり、これらの取り組みがレジリエンスの向上、市場競争力の強化、社会的責任を通じて不動産に大きな価値を提供するものと考えられています。

GX-ETS の本格稼働に伴うJCM クレジット需要の高まり

2026 年度よりGX-ETS が本格稼働 日本では、2023 年度より排出量取引制度(GX-ETS)が開始した。第1 フェーズである現在は、「自主的な制度」であることが重んじられ、企業が参加するかどうかや目標設定の水準は各社の自主的な判断に委ねられている。一方、2026 年度以降の第2 フェーズでは、排出量取引制度が「本格稼働」するとされており、大企業の参加義務化や個社の削減目標の認証制度の創設について、2025 年1 月からの国会での法案提出に向けて準備が進められている。排出削減に向けた圧力がより高まり、野心的な目標設定やその達成が期待されると想定されるが、設備更新や技術革新のタイムラインの関係上、短期的に排出削減が困難な企業も存在するだろう。そのような企業にとっては、適格カーボンクレジットの活用が有効になる可能性がある。

生物多様性条約COP16 に向けて

はじめに 2024年10月にコロンビア・カリで生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)が開催されます。近年、気候変動に続き特に注目を集めている生物多様性など“自然”に関するトピックについて各国政府や企業が一同に集まり議論をする会議となります。前回のCOP15では、今後の自然に関する新たな国際目標として、昆明・モントリオール生物多様性枠組(以下、KMGBF)が採択され、この目標においては、「2030年までに生物多様性の損失を食い止め、反転させ、回復軌道に乗せる」、いわゆる「ネイチャーポジティブ」の方向性が明確に示されました。また、生物多様性の観点から2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30目標」が主要な目標の一つとして定められたほか、ビジネスにおける生物多様性の主流化等の目標が設定されました。

脱炭素社会実現に向けたリスクベースの安全管理

2024 年5 月に、国会で「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用 の促進に関する法律」(以下「水素社会推進法」)および「二酸化炭素の貯留事業に関する法律」(以下 「CCS 事業法」)が成立し、公布されました。これらの法律は、日本が脱炭素社会を目指すための重要な一 歩となります。水素社会推進法では、事業者は、安全を確保しつつ、低炭素水素等の供給又は利用の促進に 資する投資等の事業活動を積極的に行うよう努める、とされ1、すでに、2024 年度予算で、水素供給基盤構 築の実現可能性調査(FS)への支援事業が実施されています。また、CCS 事業法に関しては、貯留事業等 の許可制度等が整備され、CCS 長期ロードマップ検討会で目標設定された2030 年の事業開始2に向け、民 間事業者による事業化のための環境が進み始めたといえます。今後、水素・アンモニア等の製造、受入、貯 蔵、輸送、およびCCS に関するプロジェクトがさらに増加することが期待されます。

金融界と産業界の共通理解に基づくトランジションファイナンスの推進・拡大に向けて

パリ協定の採択から早8年以上が過ぎる中、気温上昇を1.5℃以内に抑えるため世界的に脱炭素化の取組みを加速化させる必要性が高まっています。特に電力、石油・ガス、鉄鋼、化学、交通等の多排出産業におけるネットゼロを目指したGHG排出量削減が重要になっています。このような脱炭素化を支援する金融手法としてトランジションファイナンスが注目されています。

2030年、2035年に向けた企業の温室効果ガス削減と再生可能エネルギー由来の電力調達

日本では2050年のカーボンニュートラル、その中間目標として2030年には46%削減(2013年度比)という温室効果ガス(GHG)削減目標(NDC: Nationally Determined Contribution、各国が設定する削減目標)が掲げられています。2023年12月にアラブ首長国連邦で開催された気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、2035年に向けた目標として60%削減(2019年比)が必要であることが合意されました。日本においても、COP28での合意事項を踏まえたGHG削減目標の設定が検討されており、経済産業省では国の中長期的なエネルギー政策の指針となる第7次エネルギー基本計画(3年ごとに更新)の具体的な議論が進められているところです。